次々に新しいことにチャレンジする鈴木氏だが、日本のモノづくり力が落ちていることが気がかりだという。その大きな原因は、依然として基本的な技術を開発するよりも量産技術に注力してきたこと、そしてメーカーは「より売れる」モノづくりに邁進した結果、つくる側の「モノづくり魂」が衰退したのではないかと憂える。
「たとえば、現在も優れていると評価されている旧日本海軍の戦闘機『零戦』ですが、その中身を見ると基本的な技術は借り物でした。20ミリ機関砲はスイス製のライセンス生産品であり、計器類などの多くが外国製を参考にしたものです。前述したG1トラックと同様、戦前の技術は日本オリジナルなものはほとんどありませんでした。戦後も、オリジナルな技術を開発するよりも、量産技術の開発に注力した結果成長できたのであって、次代を切り開く技術は少ないのが実情です。これからはモノマネの技術は通用しません。日本独自の技術を開発しなければ生き残っていくことは難しいでしょう。また、『つくりたいモノ』より『売れるモノ』をつくってきたことも、今日のモノづくり力の低下を招いてきたと考えています。
私は、売れるモノより、私がつくりたいモノをつくってきました。お金は結果であって、あくまでもつくりたいモノをつくるが原点です。それが『モノづくり魂』であり、それを忘れてお金が目的となるといいモノはできなくなります。私たちは、大儲けしたことがなかったのがよかったのだと思います。儲けすぎていたら、売れるモノを追求して道を誤っていたかも知れません。
多くの企業、特に大企業は組織を維持するために、売れるモノを追求するようになった結果、どれも似たような商品になり、消費者にとって魅力がなくなり、売れなくなってしまいました。つくりたいモノをつくれる模型会社の適正規模は、売上げ3億円、社員は10人程度と考えています。それを越えたらつくりたいモノではなく、企業を維持するためにつくることになると思うのです」と、鈴木氏はモノづくりの原点はつくりたいモノをつくるという「モノづくり魂」にあると強調する。
また、鈴木氏は「ファインモールドの主張」で、モノづくりこそが日本の文化だとも語っている。「私たちは『モノづくり』こそが日本産業、いや日本文化の根幹であると断言したいのです。多くの製造業で中国などの海外製造が当たり前になっていますが、実際ほとんどの海外製造現場では日本人の主導が恒常的になければ機能しないようです。これこそ『日本のモノづくり』がキチンと伝わっているという成果だと思います。『モノづくり』というのは日本のお家芸なのです。これを忘れてしまうと、日本経済のアイデンティティに関わる事態になりかねないと信じています」
それは、自分が欲しいモノを追求し、マニアの視点で細部に徹底的にこだわり付加価値をつくることで、他社と差別化してきた鈴木氏が体得したものに違いない。モノづくりは全ての産業の基本であり、人と人をつなげる触媒だ。しかし、人と人とがつながっていくには、感動がないとつながらない。その感動を呼び起こすのがつくっている人間の「モノづくり魂」だ。鈴木氏は、日本のモノづくりを担う多くの技術者そして経営者がこの気持ちを忘れていることに我慢ならないのだ。その意味で、半完成品を自分で考えながら組み立てるプラモデルは、日本のモノづくり職人や技術者を育てる上で「モノづくり魂」を刺激する重要なアイテムだと、鈴木氏は考えている。だから、完成品が多くなった模型の世界でも、「つくること」を大事にしていくためにも、今後も挑戦を続けていく。
「私たちは夢をつくる企業であり、半歩先を行かなければ夢を提供することはできません。しかし、マーケティングを行っても夢は見つかりません。自分がユーザーであれば何が欲しいかわかりますから、半歩先をいくものを提供できる。たとえば、ウォークマンが存在しなかった時代、それは技術者が欲しいという思いから生まれたのです。ですから、私はマーケティングを一切しません。ニーズはつくっていくものです。また、モノづくりは文化を知らなければできません。文化を理解した上で、つくりたいモノだけをつくり続けるという気持ちを貫くことでブランドを確立できると思います。フェラーリなどの世界の有名ブランドも、つくりたいモノを追求することでブランドを確立してきたのです。企画は死ぬほどあります。これからも、誰もつくらないモノ、ニーズを越えたモノをつくり続けます」(鈴木氏) (2009年3月)
文:佐原 勉/写真:山下武美